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〜 ある日突然・・・ 〜  

「男の更年期」についての本をはじめてだしたときのこと。
実家にもっていったら、
「えっ! 男性にも更年期があるの?」
と母が驚いた。
とっくの昔にではあるけれど更年期を自分では経験した母も、夫である父が更年期を通りすごしてきた……なんてことは、思いもよらないことだったようだ。
「ほんとうなの? こんなこと、本にして大丈夫なの?」
と、やけに疑い深い目つきで、しげしげとカバーをながめていたのが印象的だった。  
  
そう。私だって、知らなかった。「男にも更年期がある」なんて。
ところが、4年前のことだった。いつからか、なぜだか、理由ははっきりわからないのだが、私の夫が、どうもおかしいことに気がついた。


そのとき、彼はまさに男の厄年。まあ、厄年ともなれば、何かと大変なこともあるのだろうと気をつけてはいたのだが、それにしても彼の様子はかなり、ヘン。それは急激に訪れたわけでもなく、どこがヘンともはっきりはいえないのだが、まず「やる気」がなくなった。ぼんやりしている時間が多くなって、うつろな表情をしながらテレビをボーッと見ているのだ。

私たちは自由業だから比較的、時間は自由になる。だからこそ自己管理能力を問われるし、休みなんて期待してはいけない。常にはたらいてなくてはダメなのよ、と私がカツをいれているのに、まず朝はおきてこない。
昼ちかくになっておきれば、これまたボーッと新聞をよみ、テレビをみて、午後になると夕飯のしたくをしに買いものに行く。そして夕飯をつくってくれるのだが、食べた後もやっぱりボーッとして酒をのみながらテレビをみている。
「アナタはご飯をつくるためだけに生きているのか!」
といいたくもなるくらい、夕飯しかつくらない人生になっているのだ。

わが家ではこの十数年来、彼が家事をするひとになっている。
それにしても夕食だけつくればいいってわけじゃないと叫びたくなってくる。育児なしの専業主夫という「恵まれた」立場で、酒はのむ、タバコは吸う、日がなテレビをみて、本をよむ……という生活。
たまにボランティアらしき仕事をしているが、自分の生活だってできないくせに、何がボランティアなのよ! と、「自己管理ができていない」ということで、私は彼に腹をたてていた。

それにしてもやはりヘン。
いままではやることはきちんとやったし、頭もよいし、センスもわるくない。それなりにオシャレをすれば、身内の欲目を差しひいてもかなりカッコイイ……と断言できるのに、いまや髪もひげもぼうぼう、運動不足で体に脂肪もつき、いつでもどこでも野良着で平気。家でも居場所がなくなり、まさに家庭内ホームレス状態。

さらに、お酒をのんで酔っぱらうことにも私は腹をたてた。
私自身はお酒がのめないくせに、「お酒が強いひと」が好きなのだ。私の父が酒に弱く、それでもおつきあいでのまなくちゃならない男社会は大変と思い、ならばお酒の強い男と結婚しようと、若いころからかねがね思っていた。
だから夫になるひとはお酒に強いひとがよいと思っていた。いや、彼だってたしかに強かったはずなのだ。

それなのに彼はいきなり、酒に弱くなった。ひと前でぶざまに酔っぱらう。友人のパーティによばれて一緒に行っても、のみつぶれてしまう。前後不覚になったあげくに友人宅の秘蔵の酒までのんでしまって大ひんしゅく、なんてことまでしてのけた。

ここにいたって、とうとう私は宣言した。
「もう公の場に一緒にでることはしない!」
もはやかんにん袋の緒もきれた。いままでは一緒に外出することも多かったけれど、こうしてどんどん別の行動をとるようになった。同時に共通の
会話もなくなってきた。

こうなると、彼はますます孤独を決めこむようになってしまった。電話にもでなくなるし、彼あてにかかってきた電話に対してコールバックすることすらしなくなった。外部世界とのコンタクトをとろうとしないのである。
「いじけるのも、ほどほどにせいよ……」
私は、そんな彼を冷ややかにみていた。

そのころ、彼の様子のあまりにヘンなことに、私の両親も気づき驚いていた。
「あんなにテキパキとものごとをやっていたひとが、どうしてあんなにぐうたらになってしまったのかしら……?」
母ははっきりと口にこそださなかったものの、驚きを隠せないでいた。
時に私が父にグチをこぼすと、父は困った顔をしながらいった。
「こういうことは、ひとが何をいってもわからないから、本人が気づくのをまちなさい」
「もう離婚したっていいんだから!」
叫ぶ私に、なんと父は、『三輪空寂、因縁和合』と自筆で書いて特注した扇子をもちだしてきて、いきなり舞いはじめるではないか。
結婚したというのは縁があってのことだから、その縁をクリアーにしないかぎりは、今生のちぎりをまっとうすることができないということらしい。
「そんな! じゃあ、今生でクリアーしなかったらどうするの?」
「来世にもち越すのだ」
ひえ〜! 
そんな、来世までなんて、とんでもない。それなら、ここでどうにかクリアーしなくては! せっかちな私は、とにかく「今生」でこのゲームを終わらせたい! と、そう思うと、何やら妙な「チャレンジ精神」みたいなものが、にわかにむらむらとわいてきたのだった……。

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