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〜 私が変わらなきゃ! 〜  

そのようなある日のこと。仕事が一段落したので、遊んでほしいと後ろできゅんきゅんいいながら待っている犬に向かって、
「さっ! お散歩にでも行こうか?」
といいながらふり向いた、その時だ。
犬のうれしそうな顔と同時に、彼のかがやく瞳がみえた。犬はしっぽを振りながら「ワン」といい、彼は立ちあがりながら「うん」と答えた。
「えっ!?」
と思った。彼は、一緒に散歩するときを、ずっと待っていたのだ。

考えてみれば、彼と一緒に散歩したり話をしたりする時間をうしなって、かれこれ2年くらいがたっていた。
私にはいろいろな友人がいて、寂しさを感じることもあまりなかったけれど、彼はそれなりに寂しかったようなのだ。そして私にとっての彼は、まるで観葉植物状態になってしまっていた。

あるとき、友人が家に遊びにきて驚いたことがあった。その当時はすごくせまい家に住んでいて、私と友人が話している部屋のはじに彼もいたのだが、このときその友人には彼の存在がまったく感じられなかったらしい。
後で「あ、そういえば彼いたんだね」と、友人は驚いた様子でいったのである。彼がみえなかったのだ。まさに透明人間になっていたのだ。「存在感」がまったくなくなっていた! 

男の人を立てなくてはダメだと、祖母は私をさんざん教育してきた。たしかに父親などをみていると、祖母と母に盛りたてられていたように思う。こうして盛りたててくれる人がいるからこそ、さらに力強くなれるのかもしれない。
「ああ。私はお父さんと結婚できてほんとうに幸せよ!!」
そんなに納得できる結婚生活ができてそこまでいえてしまう母を、心底うらやましいと思う。
でも考えてみたら、両親は見合い結婚、母があんなふうにいいきれるくらいの関係も、それこそ結婚して何十年ものあいだに築いてきた結晶なのだろう。
母は姑で苦労してきたのではないかと私などは思っていたのだが、しかし当の母は姑のこともほんとうに大好きで、彼女との日々も、幸せの一環として存在しているようなのだ。

そうなのだ。
対人関係の幸せとは自分で築きあげていくものであって、相手にばかり求めていてははじまらない。
ところが私は夫をとがめ、次に無視し、透明人間のように扱っていたことに気がついた。ご飯をつくってくれて当たり前。留守番してくれて当たり前。私のいうことに従って当たり前……のような気持ちになっていて、感謝の気持ちがたりなかったのだ。
「当たり前じゃなかったんだ!」 
彼の努力の結果だったのに。忘れていた……。

そんな反省から、私は彼に対する態度や行動を、意識的にあらためていくようにした。
まず、何かをしてくれたら、かならずお礼をいう。そしてほめる。特に料理が上手なので、この点については、心からほめちぎった。するとますますおいしい料理をつくってくれる。これはラッキー。

またそれまでは自分の仕事を抱え込んでいたけれど、彼になるべく簡単な仕事を手伝ってもらって、それに対してのギャランティも払うことにした。
やっばりお金の力は大きい。彼だって「仕事をした」という気持ちになれる。ちょうど仕事もいそがしくなってきたので、テープおこしや資料探しを手伝ってもらうことにした。もともと頭がいいひとなので、要領よくほんとうによくやってくれたし、頼りになった。
さらに、つとめてコミュニケーションをもつようにした。

そのためには「引っ越し」という共同作業が大いに役立った。ほんとうなら翌年引っ越そうと思っていたところだったが、おりよくよい物件がみつかったので、急きょ、家を購入することにしたのだ。

彼は以前、不動産に関する仕事をしていたこともあるので、この期間、彼といろいろな物件をみたり検討したりしながら、ゼロの状態からかなりのコミュニケーシヨンがはかれるようになった。
私の両親も一緒に物件をみてまわったりすることもあったので、夫婦だけでなく、一家だんらん的な和気あいあいとした雰囲気を味わう機会にもなった。

そうしたことと相前後して、どちらかというと独走型だった私も、彼の意見を積極的に聞いて、それを取りいれるようになった。
特に不動産契約のようなことは私にはさっぱりわからないが、彼には得意な分野だ。だから、別に意識して甘えるというよりも、ほんとうに無知なので頼りにせざるを得なかった。

そのようなことをしているうちに、彼のほうもだんだん変わってきた。表情が生き生きとしてきたし、ぜん息の発作もなくなった。早寝早起きをするようになり、髪やひげの手入れをして以前のように服装にも気をくばるようになった。
そうしていま、家庭内ホームレス状態からも脱し、長い暗いトンネルをぬけることができた、そんなすがすがしさのなかで、ようやく自律した生活を取り戻しはじめている。

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